マガキ浮遊幼生の付着と採苗

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二枚貝には,初期稚貝の時だけ足糸などで一時的に体を基質に固定し,その後は自由に動くことができるホタテガイやアサリ,また,しっかりした足糸で強く付着しますが,一度離れても再付着できるムラサキイガイ(ムール貝)などいろいろなタイプがいます。この中でマガキをはじめとする牡蠣類は浮遊幼生期の最後に片方の殻を基質に固着して稚貝になり,その後移動はできないという性質を持っています。マガキ浮遊幼生を目的の基質に付着させ稚貝として確保することを養殖工程では「採苗」と言います。マガキ浮遊幼生の付着をコントロールすることが採苗のポイントになります。

マガキの天然採苗

梅雨時期から秋にかけて海域で発生するマガキ浮遊幼生は約2週間の浮遊生活を経た後,付着期幼生に成長して,どこかの基質に付着,変態して稚貝になります。
広島湾のマガキ天然採苗では,付着期幼生の出現する時期と場所を調べてホタテガイの殻で作った採苗器(コレクター)を海に吊り下げ,稚貝を確保します。
採苗器を吊り下げる時期や場所の決定,さらに終了のタイミングは難しく,生産者の腕の見せ所になります。フジツボなどの付着を避け,狙い通りの数でマガキ稚貝をホタテガイの殻に付着させることが,その後の養殖成績を大きく左右します。

マガキ採苗器(コレクター)

広島湾で使われている一般的なマガキ採苗器は,中央付近に穴を開けたホタテガイの殻を約1.5cmのスペーサー(豆管)を挟んで約70枚を1本の針金で通したものです。針金の中央で折り曲げて左右に半々に振り分けて扱います。
最近では東北,北海道で大量に産出される廃材のホタテガイ殻が利用されていますが,かつては,イタヤガイやツキヒガイの殻も使われたことがあります。牡蠣が固着しやすい貝殻の中で安価で大量に入手しやすいことがホタテガイの殻が使われる最大の理由です。
通常の垂下養殖では,マガキ稚貝の付着したホタテガイの殻は収穫されるまでそのまま使用されます。収穫後に再利用される場合もあります。

幼生調査と種見

海域でのマガキ採苗の時期を場所を決定するために「幼生調査」と「種見」の2種類の調査が行われています。
「幼生調査」 表層5mくらいをプランクトンネットで曳き,マガキ幼生の大きさと個数を顕微鏡を使ってチェックします。この結果からいつ頃,どのくらいの量の付着期幼生が出現するかを予測します。様々なプランクトンの中からマガキ浮遊幼生の特徴を見極めて計数しなければなりません。

「種見」 試験用の採苗器(ホタテ殻)を吊り下げ,数日毎にマガキ稚貝の付着数を確認し,本番の採苗器を吊り下げる判断を下します。こちらもフジツボをはじめとする様々な付着物の中からマガキ付着稚貝を見極めて計数します。付着直後のマガキ稚貝は0.3mmくらいの大きさなので慣れていない場合はルーペなどが必要です。

これらの調査は生産者が独自に行う場合と公的機関が定期的に行い情報提供する場合があります。毎年,安定して幼生が発生している場合は,この調査方法によってかなり確実に採苗が可能ですが,海域環境の変化などで幼生が減少した場合は採苗不調に陥る可能性があります。

広島湾で毎年天然採苗ができる理由

広島湾は閉鎖的な内湾なので,波浪の影響が小さく養殖施設が壊れにくいため多くの養殖筏が設置されています。夏期には養殖中のマガキが一斉産卵することで幼生が高密度で出現します。
さらに,中国山地から広島湾奥部へ大量の河川水が流入しています。持続的な栄養塩の流入によってマガキの餌となる植物プランクトンが安定して発生し,閉鎖的な湾内に留まり散逸し難いという特徴があります。
このように,地理的な条件と養殖生産が相まって持続的に種苗の確保が可能になっています。
しかしながら,近年採苗不調の年が多発する傾向があり原因の究明と対策が課題になっています。